鳴き去っていきます

鳴き去っていきます

 

こお、こお、と水鳥が鳴き去っていきます

うっすらとした赤さの夕方

前方不注意に漕いでいく自転車は

ざらしのせいで錆びついて、

重たいギアで踏み出すたびに

チェーンが息苦しく音を立てます

 

こお、こお、と水鳥が鳴き去っていきます

音としてのみ自覚する風

いつからか

イヤホンをつけることは禁じられ、

いや、そうでなくても、

歌いながら走るのには必要ありませんでしたが

 

こお、こお、と水鳥が鳴き去っていきます

ですが

去っていると思っていたのは

好きな言葉を入れてください]だけかもしれず

そのずるっこい孤独に、

次の交差点は

もう一度、赤になります。

 


こお、こお、と飛び去ってゆく水鳥を追えば信号機に点る赤 *1

砂の記憶

砂の記憶

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白昼の園庭にある砂場から出でくる小さなしろい貝殻

 

どろだんご作って食わせるあそびかな

 

Central Park にはない猫の糞

 

愛深きあなたのような公園にだらだらと影伸びてく 果てない

 

おかあさんごっこをしている  おかあさんねえちゃんいもうとあとポチがいる

 

あたらしき忘却として削れゆく記憶のように砂はさらさら 

 

 

こちらお題箱(箱です)にいただきました「砂」より作りました。

すぐに浮かんだのが砂場でした。ありがとうございました。

 

 

 

お釣りはもらって帰らんかい

お釣りはもらって帰らんかい

 

すべてに意味があるんです

ペットボトルを並べるときは

ラベルを正面に向けてください

もちろん、もちろん

お客さんが買いたくなるように

 

噂によれば

物品の配置を2ミリずらすだけで

購買意欲が全く変わってくるのだという

(ほう、ほう、ごろすけほう)

データこそ示されはしなかったが

真実めいた分析も

確からしい経験則も

疑いようもなく現実めいてんな

 

ほうほう、ごろすけほう

いま梟の鳴き声が

聞こえませんでしたかね

まさか、

ほら、そんなこといいから

レジに入ってくださいよ

 

お待たせいたしました

(いつもと変わらずレジの通る音)

お会計は296円になります

ほうほう、ごろすけほう

1000円お預かりします

お箸はおつけいたしますか

ほうほう、ごろすけほう

ありがとうございました

白昼堂々

あの梟、釣り銭忘れていきやがった

洗って濯ぐ

洗って濯ぐ

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水温はぬるめだとよく泡立ちぬ「アーリエール、ひょう、はく、ざぃプラス!」

 

ふくらはぎ張りつめながら河岸はあまたの人らが夕を洗う

 

「ベランダのタヌキ、よくみればアライグマ」

 

 ここまで粉洗剤でやってます

 

ドラム式洗濯機へと押し付けて規則正しく震える足裏

 

ねむたさにまぶた重たく気がかりは窓外に鳴りたる洗濯機

 

こちらお題箱(箱です)にいただきました「洗濯」より作りました。

変化球つけてみようとしたら意外と難しかったです。ありがとうございました。

 

 

ネットワークプリント「トライアングル」第一回・感想

水沼朔太郎さん企画のネットワークプリント「トライアングル」は、水沼さん含む3名の歌人による連作10首が掲載されている。なにかテーマを設けているわけではないので、連作同士に関連があるというわけではなかった。

第一回の感想を以下に。

水沼朔太郎「懸命」

連作全体をみて目立つのは、助詞の省略と大胆な破調。すんなり読み下せないたどたどしい文体は、「懸命」な態度のなかでも「不器用さ・ぎこちなさ」に焦点を当てたあり方を表現しているんだろうかと思った。連作におさめられた歌になにかしらの企図を感じるけれど、それがなにかはよくつかめていない感じだ。

からだのコンプレックス抱えて生きている誰もがみんな服を着ている 

外に出れば誰もが服を着ている。そのことは疑いようがないんだけど、からだのコンプレックスの有無はまた別の話で、それでもここでは下の句での極端な一般化が、上の句をひとつの発見に変えてしまうのが面白い。からだ、とひらかれることで、ちょっと実体が薄まるというか、物質というよりも概念的なからだが立ち現われるように思った。

なんにでもネオつけてみるこんばんはネオ炊飯器ネオ豚キムチ

炊飯器や豚キムチといった物質に「こんばんは」と呼びかけるのってぶっちゃけ異様だと思うし、それにネオをつけたところで、相手が喋り返してくれるとか、なんか変わるわけじゃない。(ネオ、になんとなく期待の含みがあるような気がする。)
でもここでは「こんばんは」が示す「夜」の時間帯が、日中意識しない孤独感やさみしさを発露させ、主体に呼びかけさせる感覚にひどく同調してしまう。

※音数メモ
からだのコン//プレックス|抱えて//生きている//|誰もが/みんな//|服を/着ている 
なんにでも//ネオ/つけてみる//こんばんは//ネオ/炊飯器//ネオ/豚キムチ

 野村日魚子「生活」

これまでの作品(ヒドゥンオーサーズとか)に比べると、文体に舌足らずな印象をうけた。口語短歌の口調を取り入れるタイプのなかでもわりと硬質な感じがあったんだけど、ゆるみ、というかなんだろう。歌を声に出した時の感じがはっきりしない感じがあった。「生活」というタイトルも一般的だ。よく出てくる「死」のモチーフも、これまでのピンと張り詰めた感じと違って、なんとなく切迫感には欠けている。

ちゃんとした生活をしたいけど犬が死んだりするのはすごくいやだ

「朝決まった時間に起きて、ご飯食べて、仕事行って、帰ってご飯食べて寝る」のようなちゃんとした生活をするというのは、おそらく社会への適合なわけで、それをしたいけど、でも「犬」が死ん”だり”するといった自分の領域にある大事なものがめちゃめちゃになってしまうのはいやなのだ。

あったかいパンが入っていた袋曇っていて曇りごと捨てる 

 曇りごと捨てる。焼きたてからそれほど時間が経ってなくて(でも「あったかい」だからたぶん焼きたてではない)まだ温かいパンが、結露して袋を濡らす、あの感じ、その状態のまま袋捨てる、ことを「曇りごと捨てる」と表現した写生のよさがある。

※音数メモ
ちゃんとした//|生活を|した//いけど|犬が//死んだりするの//は|すごくいやだ
あったかい//パンが入って//いた袋//曇っていて|く/もりごと捨てる

意外と句またがり系の破調なんだな。とかおもった。

停車場に聞く 荻森美帆

定型遵守のいちばん短歌的な連作で、安心して読んだ。もちろん定型遵守だからいいというわけではないのだけど、前二つの連作からこの連作を読むと落ち着いた感じがある。でも内容はちょっとシュール。世界を少しファンタジックな位相から見ている感じ。擬人化のせいかな。

ビー玉の埋まったようなくるぶしに涼しい風が寄せては返す

ビー玉は比較的歌に詠まれやすいアイテムだと思うんだけど、多くはその「きらきら」した感じへの着目があるなか、くるぶしの骨との類似性への着目がとてもよかった。あのぼこっとした感じがいっきにクローズアップされて、風を肌で感じる体感にもってくる振り幅がよさ。しかも「寄せては返す」だから最後まで止まらない感じが動きを感じてよい。

半袖を着たまま冬になるまえにブロック塀と崩れていたい

 謎の願望。これ句切れでどこかでニュアンスが変わると思うんだけどどうだろう。

・半袖を着たまま (冬になるまえにブロック塀と) 崩れていたい

・(半袖を着たまま冬になる まえに)ブロック塀と崩れていたい

崩れていたいのは確かなのだけど、重きをおきたいのがどこなのかちょっとわかりづらい。ブロック塀の崩れ方って上の方からダララっとした感じだから、心情的には怠惰さの許容の願望なんだろうか。「と」に「ともに、一緒に」というニュアンスがあるので、ひとりではないんだな。

とりとめがなくなってきたのでこのあたりでひとまず。ありがとうございました。

 

以下宣伝ですが、「トライアングル」第二回に参加中です。12日まで出力できますのでぜひ。